マツダ ロータリーエンジンの40年
現在、ロータリーエンジン搭載車はRX-8のみであるが、そもそも前作のRX-7が新しい排出ガス規制に適合できず、提携先のフォードより一度生産中止を言い渡された。しかし、マツダはロータリーエンジンの生産意義を強く主張し(ロータリーエンジンをやらないマツダはマツダではない 趣意)、これが認められRX-8の開発が決定した。
そんなロータリーエンジンは、1960年代夢の新機構エンジンとして、世界の自動車メーカーがこぞって開発に注力した技術だった。しかし、市販化に向けて幾多の困難を乗り越え、世界の自動車メーカーでマツダだけが量産化に成功し、以降開発・製造しているのはマツダだけである。マツダは1967年に世界で始めて10A型ロータリーエンジン搭載車コスモスポーツの販売を開始し、以来40年間にわたり排気ガスのクリーン化や燃費改善、ロータリーエンジンの魅力である、軽量で高回転・高出力というポイントを改善・改良し開発を続けている。
10A型エンジンは、総排気量1000ccの2ローターであったが、これを搭載したファミリアロータリークーペがレースシーンに登場すると、当時常勝無敗を誇っていた日産自動車のS20型2000ccエンジン搭載のPGC10型(2drハードトップはKPGC10型)GT-Rを苦しめ始め、1971年にサバンナRX-3が市販化されると、とうとうGT-Rの連勝記録にストップをかけることに。ロータリーエンジンのレースデビューはかくも鮮烈であった。
その後マツダはロータリーエンジンをサバンナ、コスモ、ルーチェ、ファミリアなど各種の市販車に搭載し、コンパクトで高出力、燃費は同排気量のレシプロに比べると不利だが、過給器を用いずにこれだけの出力を無理なく発生できるエンジンは他にはなく、当時の若者をひきつけた。
しかし燃費の良くないロータリーエンジンはオイルショックの到来と同時に悪者扱いされ、マツダは経営不振に陥ることになる。同社の経営危機を救ったのは小排気量のレシプロエンジンを搭載した経済車ファミリアであったが、そのような状況においてもマツダはロータリーエンジンの火を灯し続けた。
ロータリーエンジンは、2ローターの10A型から始まり12A型、13B型、そして3ローターの20B型へと進化を続けるが、基本的なエキセントリックシャフトやハウジング形状は10A型の時代からほとんど変化がなく、排気量アップはローターの厚みを増すことによってのみ行われている。10A型エンジンの開発時に黄金比率はすでに決まってしまったことになるが、こうすることにより、ロータリーエンジンの肝ともいえるシール部の寸法などを大きく変更することなく排気量の増加が可能となるため、無駄な開発を行わずにバリエーションの増加が可能となっている。(ただし、吸排気ポートの形状や配置、燃焼室形状は各エンジン、バージョンによって異なる。)
このようにロータリーは大きな部分の変更は無いものの細かい部分での調整を重ね、日本車初、唯一のル・マン24時間耐久レース優勝をMAZDA787Bで達成する。
市販化40周年を向かえ熟成の域に入ったロータリーエンジン、ここではそんなマツダのロータリーエンジンの40年にわたる開発の変遷と節目技術に関し進化の過程を紹介する。
ロータリーエンジンの排気ガス成分濃度は、ロータリーエンジンの構造上の特徴から、燃焼室の形状が扁平であること、燃えながら場所を移動することが災いし、レシプロエンジンに比べNOxが低くHCが高い。そのため従来の排気ガス浄化システムは、排気ガス中に空気を供給する排気二次空気システムによって作られた酸化雰囲気環境下で、サーマルリアクターや触媒により主にHCの浄化を行ってきた。しかし、このシステムでは緻密な制御が出来ない空気を排気ガス中に混入させるため、酸素濃度センサを使用した現代の空燃比制御システムでは制御精度が悪く、排気浄化性能に限界があった。
新型のロータリーエンジンでは二重構造の排気管などを採用することにより、始動時の触媒暖機時間の短縮とサイドポート排気化によりHC濃度の大幅削減が可能となり、排気二次空気システムによる排気ガス中に空気を供給する時間を始動時のみと、大幅に短縮され、その結果空燃比制御精度の大幅な向上が図られ、最新の排気ガス規制もクリアーすることが可能となった。
ロータリーエンジンは、4サイクル機関の吸気・圧縮・膨張・排気の4工程をローターが1回転する間に行い、同時にエキセントリックシャフトが3回転する仕組みになっている。4サイクルのレシプロエンジンで同じ4工程を行った場合、クランクシャフトは2回転となるため、ロータリーエンジンはレシプロエンジンに比べ各工程にかかる時間が1.5倍長いことが解る。
この機構上の特徴から、吸排気工程の期間も1.5倍長く取れるため、高回転領域におけるガス交換に時間がかけられ、4サイクルレシプロエンジンよりも高回転・高出力に適した素性を持っている。
ただし高回転化に伴い
(1)エキセントリックシャフトのたわみ
(2)アペックスシールの軽量化
(3)高回転域での吸入空気の充填効率の確保
が主要な課題となる。
(1)に関しては主にローターの軽量うす肉化にて対応
(2)に関してはガスシールを参照
(3)に関しては以下の対応を行ってきた。
初期型のロータリーエンジンでは、高精度な4バレルキャブレターの採用によって通気抵抗を低減し、1981年には世界初となる可変吸気タイミング機構の6PIを開発、EGI化以降はロータリーエンジン独特の吸気脈動を用いた動的過給技術を開発し、以降のロータリーエンジン全てに展開した。6PIと動的過給技術をベースに、最新のロータリーエンジン”RENESIS”では5段階でステージを切り替えるダイナミックシーケンシャル吸気システムへ進化し、低回転域から9000rpmと言う超高回転域まで、幅広い回転領域で充填効率を高めている。
1982年に採用したターボ過給もシーケンシャルツインターボの開発により、ターボラグの低減と高回転・高出力の両立を図っている。
ロータリーエンジンでは、以下の理由から軽負荷域での燃焼安定化が課題である。
(1)吸気弁が無く、吸気ガス流動も少ないため燃料の気化がしにくい。(レシプロエンジンで燃焼改善に用いられる、タンブル流、スワール流などのガス流動がロータリーエンジンでは用いることが難しい)
(2)点火プラグを燃焼室内部へ突出させることが出来ない。(ローターが摺動してくる為点火プラグはプラグホール内部へ設置される)
(3)排気工程と吸気工程のオーバーラップが大きいので吸気中へ排気ガスを持ち込む割合が大きくなる。(内部EGR量が多い)
燃料気化の促進
EGI化に伴い、燃料噴射インジェクターにエアブリードを設け、燃料液滴の微粒化を促進させた。その後、最新のロータリーエンジンでは燃料噴射した壁面に直接エアを噴射するジェットエアミキシングシステムと12噴孔インジェクターを採用し、吸気ガス流動が少ない領域での燃料気化の促進に対処している。
点火プラグの進化
点火プラグは点火プラグホール内に設置される為、着火性の確保が必要になる。さらにそれに加え、360度で1点火するロータリーエンジンは通常の4サイクルレシプロエンジンの2倍の点火回数になる為、点火プラグには高い耐熱性が要求される。従って、低燃費化や低温域での着火性などの実用域での使い勝手と高出力化に伴う耐熱性など諸性能を満足させる為には点火プラグの性能向上がロータリーエンジンの性能向上を握っていた。
初期のロータリーエンジンでは外側電極2極から4極のエアギャップタイプを採用し、1989年に中心電極に白金チップを採用した外側電極4極スーパーエアギャップタイプを採用し、最新のロータリーエンジンでは極細イリジウム合金の中心電極と細い白金合金の外側電極を用いたマイクロ1極エアギャップタイプを採用している。
オーバーラップの低減
軽負荷域での燃焼改善のために燃料噴射系や点火系の改善を進めてきたが、抜本的な改善とはならないため、吸排気工程のオーバーラップを低減させる技術として従来のペリフェラル排気方式からサイド排気ポート方式へ変更された。
サイド排気ポート方式は吸気ポートと排気ポートのオーバーラップをなくすことが出来る為、ロータリーエンジンの実用化初期の段階から期待された構造ではあったが、当時は出力や信頼性の問題に目処が立たなかったため、実用化が見送られていた。その後、ガスシールの進化や、オイル消費低減など、ロータリーエンジンの諸問題が解決されるに伴い信頼性も確保され、ローターサイド面を介しての吸排気ポートの連通を遮断するカットオフシールの開発により吸排気のオーバーラップ量低減が可能となり、結果狙い通りの燃焼安定化を実現できた。
以上の燃焼安定化の為の三つの分野の改善により、最新のロータリーエンジンは旧型に比べ30%の燃費改善を図っている。
ロータリーエンジンの技術の中で最も重要なものがガスシールで、その技術の進化がロータリーエンジンの性能向上に大きく貢献してきた。
アペックスシール
ロータリーエンジンの実用化開発の初期の段階では、アペックスシールがローターハウジング内壁にチャターマーク(傷)を付けてガス漏れを生じる問題の解決が、開発の出発点となった。
アペックスシールは遠心力と作動圧を受け、ローターハウジングの内壁に押さえ付ける力が働きながら高速で移動する為、シール機能を確保する為には柔軟性の確保と、軽量化及び耐摩耗性の向上が主な開発課題であった。
実用化初期段階ではカーボン材で対応してきたが、その後金属3mm幅サイドカット2分割、金属2mm幅サイドカット&上下3分割と進化を遂げ、最新のロータリーエンジンでは軽量化のため金属2mm幅2分割とさらに進化を遂げている。
サードシール
サイドシールは初期は2重シールであったが、単一シールへと進化し、最新のロータリーエンジンではキーストーンタイプとなってさらにシール性能を向上させている。
オイル供給
高速で移動するアペックスシールの潤滑性能を確保する為には適正な量のオイル供給が必要であるが、初期のロータリーエンジンは2ストロークエンジンのように専用のオイルポンプでオイルをキャブレターフロート部に供給し、燃料と共に燃焼室内へ供給する混合給油方式で潤滑する方法を取っていた。そのため、オイル消費も激しく性能を維持する為には通常のレシプロエンジン以上にオイルの管理に気を配る必要があった。
その後、吸気管にオイルを供給する分離型ポート給油方式へと進化し、さらに直接ガスシール摺動部に給油するダイレクト給油方式へ進化した。
オイルポンプも機械制御式から電子制御式へ進化し、これらオイル供給系(潤滑系)の一連の進化によって最新のロータリーエンジンでは初期のころのロータリーエンジンのオイル消費の10分の1以下のオイル消費となり、レシプロエンジンと遜色ないレベルまで改善されている。
ロータリーエンジンは、基本的に、繭型断面形状をしたハウジングと、その中にある三角形のローターで構成され、両者に囲まれた作動室内で、燃料と空気の混合気を燃焼させ、その膨張圧力でローターをまわす仕組みである。
マツダで開発した2ローターのロータリーエンジンは、2つのローターハウジングを三つのサイドハウジングでサンドイッチする構造で、2つのローターハウジングそれぞれの中でローターが回転する。ローターはステーショナリーギアーで軌道を規制され、燃焼時の膨張圧力はローターを介してエキセントリックシャフトに伝達されて出力を発生する。
ローターにはローターの3辺にある作動室を密閉する為に、ローター頂点(三角形の3つの頂点)にアペックスシールと頂点サイド面にコーナーシール、そして各コーナーシール間のサイド面にはサイドシールが設けられており、ローター中央部、ギアーの外側に円形のオイルシールが設けられている。